研究内容

 ゲノム編集部門では、細胞及びマウスにおいてCRISPR/Cas9 systemなどを用いて遺伝子改変を行うことにより、遺伝子機能を解析したり、タンパク質の挙動をライブイメージングにより観察することにより、主に受精現象およびエキソサイトーシスにおいて重要な因子の機能解析を行っています。

1. 受精前後における精子と透明帯の結合・通過制御機構の解明

 

 哺乳類の卵子は透明帯と呼ばれる細胞外マトリックスで覆われています。受精の際に、精子はこの透明帯に結合したのちに、通過して卵子と融合することにより、受精が完了します。この透明帯は、ヒトではZP1, ZP2, ZP3, ZP4の4種類、マウスではZP1, ZP2, ZP3の3種類のタンパク質から構成されていて、精子がどのタンパク質を認識して結合しているのかは長年議論の的となっていました。近年、アメリカ国立衛生研究所のJurrien Dean博士らの研究によって、ZP2が精子の認識タンパク質であるという様々な証拠が報告されてきたことにより、現在ではZP2が精子と透明帯の認識機構に重要であるという考えが有力です。

 我々は、ZP2のN末端領域の35-149アミノ酸を透明帯に発現させると精子はその透明帯に結合し、通過することができることを世界で初めて報告しました。今後は精子側のZP2レセプターの同定を行うことにより、立体構造レベルでZP2とどのように相互作用しているのかを明らかにしていきたいと考えています。

 

 

2.受精後の透明帯通過阻害機構の解明

 

 一つの卵子に二つ以上の精子が融合する多精子受精が起こると胚発生が停止してしまいます。それを阻止するために、一つの精子と一つの卵子が受精した時点で新たな精子と受精卵の相互作用を阻害するメカニズム(多精子受精阻害機構)が存在することがわかっています。そのうちの一つである透明帯結合阻害は卵子の表層顆粒より放出されるOvastacinという酵素によってZP2が切断されることによって引き起こされることがわかってきました。我々は、ZP2の切断部位に変異の入ったZP2変異タンパク質を発現するマウスの卵子を用いて、受精後の数時間のみ、ZP2切断非依存的な透明帯通過阻害機構が存在することを明らかにしました。そのメカニズムの一つとして、受精直後に卵子より大量の亜鉛が放出されるZinc sparksという現象に注目し、精子の運動性に影響を与えることによって透明帯通過を阻害している可能性を明らかにしました。今後は、どのような分子が関与して運動性に影響を与えるのかを明らかにするとともに、そのほかの透明帯通過阻害因子の同定を進めていきたいと考えています。

(右図:Zinc Sparksの瞬間を捉えた画像, Ovastacinに赤色の蛍光たんぱく質を融合させたTGマウスの卵子を使用して、細胞外の高濃度の亜鉛を緑色の検出試薬により観察したもの)